2010年3月3日水曜日

3月2日 日経春秋

男の子は、ただならぬ気配を感じて、波打ち際から離れていた。だが友達は彼の目の前で、大波にのまれてさらわれていく。立ちすくんでいると波が再び迫り、波頭に浮かんだ友達がこちらに腕を差し出して、ニヤリと笑いかける……。

という書き出しで始まった今日の日経春秋欄、ちなみに朝日で言うところの天声人語である。

天声人語が好きなので、日経でもこの欄から読み始めるのだが、なんとも切れも、ひねりも聞いてない文章だと私は評価しており、期待せずに読んでる。

が、今日は冒頭からぐいぐい引っ張られる力を感じた。

数行後にその正体がわかった。チリ地震の津波に関連した春樹さんの短編の引用だったのだ。

レキシントンの幽霊に収録されている『7番目の男』である。


春秋の最後はこう括られている。今日は天声人語並みのできであった。

画面に映り続ける静かな港の光景が不気味だった。住民にとっては、いつ襲ってくるとも知れぬ怪物を待つ時間こそが恐怖であろう。小説の主人公は友人を失った自責から40年後に解放されて、こう語る。「何よりも怖いのはその恐怖に背中を向け、目を閉じてしまうことです」。ほっとしてばかりもいられない。