2010年3月3日水曜日

3月2日 日経春秋

男の子は、ただならぬ気配を感じて、波打ち際から離れていた。だが友達は彼の目の前で、大波にのまれてさらわれていく。立ちすくんでいると波が再び迫り、波頭に浮かんだ友達がこちらに腕を差し出して、ニヤリと笑いかける……。

という書き出しで始まった今日の日経春秋欄、ちなみに朝日で言うところの天声人語である。

天声人語が好きなので、日経でもこの欄から読み始めるのだが、なんとも切れも、ひねりも聞いてない文章だと私は評価しており、期待せずに読んでる。

が、今日は冒頭からぐいぐい引っ張られる力を感じた。

数行後にその正体がわかった。チリ地震の津波に関連した春樹さんの短編の引用だったのだ。

レキシントンの幽霊に収録されている『7番目の男』である。


春秋の最後はこう括られている。今日は天声人語並みのできであった。

画面に映り続ける静かな港の光景が不気味だった。住民にとっては、いつ襲ってくるとも知れぬ怪物を待つ時間こそが恐怖であろう。小説の主人公は友人を失った自責から40年後に解放されて、こう語る。「何よりも怖いのはその恐怖に背中を向け、目を閉じてしまうことです」。ほっとしてばかりもいられない。

2010年2月28日日曜日

オペラ パン屋大襲撃

さすがサントリーさん!
うれしいですねこういう企画。
春樹さんの「パン屋襲撃」と「パン屋再襲撃」がオペラになり、公演されます
いよいよ東京では来週。なんとか無事チケット取れたので楽しみ。
私はたまたま仕事上見なければいけないサントリーニュースリリースで新製品情報のなかに埋もれていたのを発見したのですが、皆さんどこで情報を仕入れているのか、チケットは平日にもかかわらず発売時間10時を少し過ぎた20分ころ電話したところ、すでにほぼ席の選択の余地はなく、とにかく空いてる席をということでなんとか手に入れることができました。

「パン屋襲撃」はwikiによると1981年10月号の「早稲田文学」に掲載。その後、1986年糸井重里さんとの共著「夢で会いましょう」に「パン」で収録。

出てくる曲:
ワグナー『トリスタンとイゾルデ』”冒頭に出てくるチェロとオーボエによる美しいテーマがこの二人の愛のモチーフであります"
ワグナー『タンホイザー』

「パン屋再襲撃」初出:マリクレール1985年8月号、単行本:1986年4月文藝春秋「パン屋再襲撃」、文庫:1989年4月文春文庫に収録。

この「パン屋再襲撃」短編集としてもクオリティーが高く、今読み返しても新鮮に読めるものばかり。短編「パン屋再襲撃」もいい作品である。なんといっても、”『オズの魔法使い』にでてくる竜巻のように空腹感が襲いかかってきた。”というフレーズは誰もがお気に入りのフレーズとなっているはず。

出てくる曲:
ワグナー序曲集。『タンホイザー』、『さまよえるオランダ人』

2010年1月29日金曜日

サリンジャー訃報

それは仕事中開いたインターネット記事で知りました。
その瞬間、体に衝撃が走り静かな職場で「あっ!」と無意識に声が出たくらい。

サリンジャーが他界してしまいました。もちろん社会的にはすでに亡くなったも同然でしたが、実際にいなくなるというのはやはり気持ちが揺れます。

同時に思ったのは、春樹さん訳の「キャッチャーインザライ」、生きてるうちに翻訳許可が実現したのは本当によかった。

新聞記事:
訃報:サリンジャーさん91歳=「ライ麦畑でつかまえて」
サリンジャーさんとその著書。写真は1951年撮影=AP 【ニューヨーク小倉孝保
小説「ライ麦畑でつかまえて」で知られる20世紀米文学を代表する作家、J・D・
サリンジャーさんが27日、米北東部ニューハンプシャー州コーニッシュの自宅で死去した。91歳だった。同作を書いて以降、ほとんど作品を発表せず、隠とん生活を送っていたため、生きながらにして伝説の作家になっていた。
 同氏の長男で俳優のマット・サリンジャー氏が28日、声明を出した。自然死だった
という。
 サリンジャーさんはポーランド系ユダヤ人とアイルランド系の両親のもと、1919年、ニューヨーク・マンハッタンに生まれた。10代で執筆をはじめ、40年、ストーリー誌に掲載された「若者たち」でデビュー。42年に米軍に入隊し、ノルマンディー上陸作戦(44年)にも参加した。
 戦後、ニューヨーカー誌に発表した短編が評判になり、51年の「ライ麦畑でつかまえて」は大ベストセラーになった。成績が悪く高校を追い出された主人公の屈折した感情を、攻撃的な言葉で表現し話題になった。主人公の名「ホールデン・コールフィールド」は、戦後、悩める若者たちの代名詞になるなど社会現象を巻き起こした。
 しかし、身辺が騒がしくなったことを嫌った同氏は53年、突然、ニューハンプシャー州の田舎町で隠とん生活に入り、メディアに登場することもなくなった。「ナイン・ストーリーズ」(53年)、「フラニーとゾーイー」(61年)を執筆、65年に同誌に出した「ハプワース16、1924」が発表された最後の作品になった。
 「ライ麦畑でつかまえて」は多くの言語に翻訳され、これまで約6500万部以上を売り上げ、現在も毎年約25万部が売れるとされている。日本では、村上春樹さんの新訳「キャッチャー・イン・ザ・ライ」(03年)が話題になった。
 ◇社会から身を潜めた伝説の作家 
 27日に亡くなったサリンジャーさんは、社会から身を潜めた伝説の作家だった。大のマスコミ嫌いで、メディアのインタビューに応じないことでも知られ、74年、20年近くの沈黙を破りニューヨーク・タイムズ紙の電話インタビューに応じたのが最後。その時は「作品を出版しないでいれば平和な日々だ。私は書くことが好きで、今も自分の喜びのために書いている」と語った。そのため、米出版界では、現在も作品を書いて
いるのか、死後、その作品はどうなるのかなどが常に関心事となっていた。
【棚部秀行、小倉孝保】


 代表作「ライ麦畑でつかまえて」は、少年の清純で鋭利な感覚と、人間社会のいやらしさを描いた。50年代の米国のティーンの言葉を活写し、圧倒的な人気を博した。
 日本では野崎孝さんの訳で紹介され、若者たちを熱狂させた。村上春樹さんはじめ庄司薫さんら影響を受けた作家は多い。
 高校時代にサリンジャー作品を読んだという直木賞作家、角田光代さんは「当時、自分にピッタリくる言葉がみつけられなかったが、こんな近しい言葉で語ってくれる小説の主人公がいるのだと知り、うれしかった。身近な素材でも文学になりうると考えた最初だった」と振り返る。
 現代米国文学の翻訳で知られる柴田元幸・東京大大学院教授は「意識過剰で居心地が悪く、大人になるのが嫌という若者像を『ライ麦畑』が初めて描いた」と功績を説明。その訃報(ふほう)に「隠とん生活で、文学的には死んだと思っていたが、生物学的な死が追いついた気がする」と語った。
 「ミステリアス・サリンジャー」などの著書がある田中啓史・青山学院大教授は「作品数は少なくても、戦後米国の問題を鋭く突きつけた重要な作家。65年以後は新刊はないが、書き続けていたともいわれ、今後、作品が公表されるか注目したい」と話している。
毎日新聞 2010年1月29日 7時56分(最終更新 1月29日 15時15分)


MSM産経ニュース
米作家・サリンジャー氏死去 「ライ麦畑でつかまえて」
2010年1月29日10時56分

 【ニューヨーク=田中光】世界的なベストセラー「ライ麦畑でつかまえて」(1951年)などで知られる米国を代表する作家、J・D・サリンジャーさんが27日、米東部ニューハンプシャー州の自宅で、老衰のため死去した。91歳だった。AP通信が家族の話として伝えた。

 ニューヨーク・マンハッタン生まれ。高校や大学を転々とした後、雑誌への小説の投稿を始めた。1942年から陸軍に所属し、第2次世界大戦で欧州戦線に派遣されてノルマンディー上陸作戦も経験した。戦地でも書き続け、作品は名門誌「ニューヨーカー」に掲載されるようになる。
 「ライ麦畑」は、名門校を放校になった16歳の少年がニューヨークをさまよう青春小説で、米国の青年にとって必読書的な存在となった。世界各国で翻訳され、発行部数は6千万部を超える。日本では野崎孝訳が64年に出版され、250万部を超えるロングセラーに。03年には村上春樹訳が出版された。
 短編集「ナイン・ストーリーズ」(53年)、「フラニーとゾーイー」(61年)などを相次いで発表したが、65年の「ハプワース16、一九二四」を最後に、ニューハンプシャー州の小さな街でひっそりと生活するようになった。
 私生活に触れられることを極端に嫌い、伝記の著者を相手取り最高裁まで争った。


私生活謎の“伝説の作家” 死去のサリンジャー氏 プライバシーで訴訟ざたも
2010.1.29 10:26

 27日に91歳で死去したサリンジャー氏は小説「ライ麦畑でつかまえて」で世界的にその名を知られながら、私生活は謎に包まれた“伝説の作家”だった。同氏がニューハンプシャー州の田舎町、コーニッシュに転居したのは1953年ごろ。当初は地元の高校生との交流などもあったが次第に人間不信を強め、高い塀に囲まれた家からほとんど外出せず「孤立した生活」(米メディア)に入った。
 取材にはほとんど応じず、84年には「ライ麦」の熱狂的なファンだった英作家が独自の調査に基づく伝記を出版したが、サリンジャー氏側は「プライバシーの侵害」として出版差し止めを求めて勝訴した。
 ニューヨーク・タイムズ紙によると、45年にドイツ人女性と結婚したが離婚。55年に再婚し、1男1女を設けたが破綻。70~80年代には女子大生や女優との恋愛もあったが、その後、地元の看護師の女性と結婚、彼女が最期をみとったという。(共同)

2009年12月16日水曜日

NYでねじまき鳥クロニクル上演

Newyork Times記事より:
SOHOにあるオハイオシアターで来月、春樹さんの小説をベースにしたメルチメディアシアター作品の上映が決まったようです。年明けの12日にプレビューがあり、15日から30日まで上演されるとのこと。

春樹さんの作品、映画(『ノルウェイの森』)、音楽(『パン屋大襲撃』)、舞台と最近、いろいろなメディアに変換されてますね。


http://www.nytimes.com/2009/12/14/theater/14arts-INTHEWINGS_BRF.html

“The Wind-Up Bird Chronicle,” a new multimedia theater piece based on the novel by Haruki Murakami, is set for a run at the Ohio Theater in SoHo next month. Part of the Public Theater’s Under the Radar Festival, the show, conceived and directed by Stephen Earnhart, and written for the stage by Mr. Earnhart and Gregory Pierce, combines live music, puppetry and movement, with cinematic video and audio technology used to tell a story of the human quest to find intimate connections. Previews begin Jan. 12, with an opening on Jan. 15 and performances through Jan. 30

2009年12月6日日曜日

Japanese writer Murakami honoured in Spain

http://www.expatica.com/es/news/spanish-news/Japanese-writer-Murakami-honoured-in-Spain_58594.html

Japanese writer Murakami honoured in Spain
Japanese cult author Haruki Murakami has been awarded Spain's Order of Arts and Letters, the Spanish government announced Friday.
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The manga that poured French wine into AsiaMadrid - Japanese cult author Haruki Murakami has been awarded Spain's Order of Arts and Letters, the Spanish government announced Friday.

The award is "in recognition of the creative personality of a very original narrative voice, a creator of literary work who has become a leading reference for contemporary literature," the ministry of culture said.

"Since the publication in Spain of his novel 'A Wild Sheep Chase' he has enjoyed considerable success among the Spanish public," it said in a statement.

Murakami, 60, a former Tokyo jazz bar owner often mentioned as a Nobel literature prize contender, has struck a global chord with his sensitive tales of the absurdity and loneliness of modern life.

His novels, which have been translated into almost 40 languages, also include "Norwegian Wood," "Kafka on the Shore" and "The Wind-Up Bird Chronicle."

His latest work, "1Q84", became an instant bestseller when it was released in Japan in May.

AFP/Expatica

2009年6月12日金曜日

見かけにだまされないように

書き出しの数行で文章がすんないり体にしみてくる。最近の『アフターダーク』(2004)にしても、『海辺のカフカ』(2002)にしても、ほんの少ししっくりこない感じだった。冒頭、タクシーの中でヤナートニクの”シンフォニエッタ”が流れるというのは、ドイツ行きの飛行機の中でビートルズが流れてきたり、スパゲティーを茹でながら泥棒かささぎが流れたりする、過去の私の好きな作品を彷彿とさせる。


2009年6月11日木曜日

目次

目次がつくのも久々ではないでしょうか?
”青豆”、”天吾”。何のことかわからないが、章毎に交互になっている様子は『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』を彷彿とさせる。けれど、あの時は短い名詞が三つづつ並んでいた。今回は短い文章になっている。なので、どちらかといえば『ねじまき鳥クロニクル』のよう。そう、ねじまき・・はまさにその中間、長い名詞が2つ、もしくは3つ並んでいる。

第18章 もうビッグ・ブラザーの出てくる幕はない

本人もどこかのインタビューで触れていたと思うが、この作品のタイトルはジョージ・オーウェルの『1984』(1949)からとられている。その『1984』にでてくる”ビッグブラザーの名前がこんなに直接的にでてくるとは驚いた。

ちなみに『1984』、アマゾンで中古品が一時¥5,979-で出されていた。確かにこの本、貴重です。そうそうおっきな本屋に行ってもなかなか置いてません。